恋愛時間

木原音瀬の「恋愛時間*1」を読了。
これまで読んできたBL小説は若い子達が主人公(少なくとも一方が学生)でしたが、
これは完全にリーマンもの。
しかも主人公の一人、有田とは殆ど同年代。
思い入れも強くなると云うものです。
展開がスピーディな学生モノ、学園モノと比べて
ゆっくりとした時間の流れで物語が進んでいきます。
社会人で、恋愛だけで世界が回っているわけではないと云う
現実的な理由もあるのですが(それがリアリティを醸し出しています)、
主にそれは、もう一人の主人公である広瀬の正確に起因するものでしょう。
その部分が、おくてで悠長な自分の恋愛に対する
スタンスに近いものが感じられて、
有田と同世代と云うことも相俟って、話に引き込まれました。
まあ、広瀬はある種、飛び抜けていますけど。
流石に私も6年間も想いを秘め続けているのはないですから。
好きだからと見つめ続けていたら、
会議室に呼び出されてそのことを責められたら、
自分だったら間違いなく凹みます。
多分、嫌われているのだと思って、その人には近づこうとしないかも。
それでも有田を誘う広瀬を健気に思います。
長い時間をかけて辿り着いた「恋人時間」のラストは
とても甘々でしたが、
「兄の恋人」では打って変わって
広瀬が家族に有田のことを打ち明けてしまい、騒動が起こります。
正直、カミング・アウトする人の気持ちは理解し難いのですが
(それで生じる軋轢や差別意識を考えるととても…)、
秘密を抱えて生きる辛さは分かるので、何となくは
広瀬の気持ちが掴めなくもないです。
このエピソードでは広瀬の妹が悪者みたいになっていて、
損な役回りかなあと思います。
どうしても女性の嫌な側面が強調されてしまうようで。
映画館で泣いてしまう有田はちょっぴり可愛らしい。
自分だったら外では泣けないです。家の中で泣き濡れてしまう方。
広瀬に確かめれば良いのに、とは思うのだけれど、
聞けばそれまでのことが全部壊れてしまうのではないかと云う危惧と、
プライドが邪魔して尋ねることが出来ない心情は分かるなあ。
最後の「海岸線」のお話はやっぱり甘々で、
有田がすっごく甘やかされていて笑ってしまいました。
最初、嫌がっていたとは思えない順応ぶりです。
なんというか、ある意味、飼いならされている?


青少年の分別を忘れたかのような激しさや勢いとは別の、
大人の恋愛事情で、
それでいて内に秘めた感情の動きが印象的なお話でした。
今回もid:mou-mou様の推薦図書(笑)です。感謝。面白かったですー。

*1:

恋愛時間 (アイス文庫)

恋愛時間 (アイス文庫)